2012年12月7日金曜日

定点観測で大掃除ってのはどうだ



 結局政党は12になった。4日公示された衆院選は、小選挙区で1294人が届け出て、比例区では未来、維新でかなりの届け出の遅れが出た。どたばた、といっていい状況は、野田首相の仕掛けが当たったといえなくもない。政局という言葉は好きになれないが、今度のは久しぶりに面白い。 

 野田のねらいは、明確に第3極潰し、さらには小沢潰しだった。だれもが年末・年明けと読んでいた解散を早めれば、政策調整やらなにやら混乱を招く。年が明けなければ政党交付金は入らない。民主の離党にも歯止めがかかる‥‥この目算だけはちょっと外れたが、野田という男は相当な策士である。今の民主でここまで腹がくくれる人間はいない。 

 案の定第3極は大混乱になった。橋下徹の日本維新の会と石原慎太郎の太陽の会がくっついて、橋下・石原の個人の好みが優先したことで、政策面ではおかしなことになった。維新と協調のはずだったみんなの党がはじき出され、同じく袖にされた河村たかしの減税日本も、亀井静香とくっついたり。 

 さらに「後出しじゃんけん」で嘉田由紀子・滋賀県知事が「未来の党」で「この指とまれ」とやるとは、誰も予測できなかった。野田にも想定外だったろうが、実は「国民の生活」の小沢一郎が仕掛人だったのだから、これまた相当なものである。しかし第3極は3つないし4つに分断され、結果的に野田の狙いは当たった。 

 勝ち負けはともかく、野田は、敵を自民と思い定めている。今の小選挙区制では小さい政党に芽はない。3極が混乱すれば、あとは自民だ。なんとか踏みとどまれると読んだようだ。 

 解散の時点で何人かの評論家が、選挙での議席数を予想していたが、大方は自民、維新、民主とする中で、田原総一朗だけが「民主は意外に善戦する」と2位にしていたのが面白い。メディアも多くが第3極の混乱を読み切れず、ことの展開でそれに気づくまでに一拍あった。 

 解散でいちばん青くなったのは、小沢一郎だったろう。民主党を抜けて48人を擁していても、中身はチルドレンとがらくただ。「消費税反対」と「脱原発」では支持率もあがらない。新聞からも、しばらく小沢の名前が消えていた。 

 彼は必死だった。動きも素早かった。直談判で嘉田を説き伏せ、嘉田が会見すると即日合流を決めた。しかも、自らは役職に就かない。なりふり構わぬとはこのことだ。 

 メディアは一斉に、「小沢は母屋を乗っ取るのではないか」と書いた。「未来」の国会議員の大半は小沢派だ。候補者選定のメカニズムもない。公示まで1週間。選挙は小沢が仕切ることになる。たしかにいつか来た道だ。 

 ここで民主からも自民からも「(未来は)民主党の二の舞いになる」という声が上がったのが面白い。小池百合子はテレビで、「3年間まざまざと見てきた。また同じことをやるのか」とまでいった。かれらは冷静にみていたのだった。 

 民主党のごたごたの元凶は常に小沢だった。小沢がいなくなれば、民主党はすっきりする。だれもがわかっていたこの構図を、だれも口にせず、メディアも書かなかったのは、数の論理と「小沢待望論」がセットであったからだ。 

 小沢が新人議員に「君らの仕事は次の選挙で当選することだ」といったとき、バカなメディアは反発もしなかった。小沢待望論はメディアにも根強くあったのである。有権者にいわせれば、そんな議員要らない。戻ってこなくていい。小沢もまた要らないはずなのだが‥‥ 

 彼はとりあえず、票になる組織を手に入れた。「卒原発」以外になかった公約に、あれやこれや付け加えたのも、「この指とまった」面々を選挙区・比例区に割り付けたのも、小沢であろう。この辺りはプロだ。あとはいつものドブ板選挙‥‥のはずだった。 

 が、届け出の4日の夕刊を見て驚いた。「未来」は選挙区には107人とあるのに、比例区がゼロ。比例名簿の提出が、締め切りぎりぎりになったのだという。その理由がふるってる。代表代行の飯田哲也が、自分(山口1区の重複)を含めた順位の入れ替えを指示して、大混乱になったのだと。 

 思わず小沢の顔を思い浮かべた。もし間に合わなかったら、小沢も子飼いも「未来」も墓場行きだった。選挙の結果がどうあれ、これが尾をひかないはずはあるまい。嘉田も飯田も小沢が知らない人種である。とりわけ飯田はエネルギー学者で「脱原発」のゴリゴリ。面白いゲームになるだろう。 

 かくて始まった選挙では、消費税と原発とTPPの賛否が入り組んで、まことにわかりにくい。しかし、有権者はバカじゃない。この3年余続いた民主党のごたごたのお陰で、政治の性根がよく見えるようになった。マニフェストが公約に変わろうと、選挙で掲げる政策なんて、おおざっぱな信号みたいなものだ。赤を信用するか、青を選ぶか。 

 それよりも、ここはひとつ視点を変えて、国会に要らない人間を追い出す「大掃除選挙」と考えたらどうだろう。定点観測よろしく、どっかと座って見据えれば、自ずと性根は見えてくる。人間を見よう。素性を見よう。変節を見よう。その方がすっきりして選びやすい。(敬称略)